東京高等裁判所 昭和63年(ネ)1396号 判決
当裁判所も被告装置は本件考案の技術的範囲に属しないから、控訴人の請求は棄却されるべきものと判断するものであつて、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決が理由において説示するところと同一であるので、これを引用する。
1 原判決九丁表末行2(一)の冒頭に次のとおり付加する。
本件考案の技術的範囲を定める基準となる本件明細書の実用新案登録請求の範囲によれば、本件考案に係る床組連結固定装置において、隣接支柱の下部の間を連結する連繋梁及び各支柱の上部と連繋梁との間を連結する脚繋梁が梁として、別個の構成要素であることは、その記載文言自体から明らかなところであるから、本件考案においては、連繋梁と脚繋梁が独立の部材として予定されているものということができる。この点を本件明細書の記載に基づいて更に具体的に検討すると、
2 原判決一〇丁表二行目の「そして」から同六行目の「認められる。」までを次のとおり訂正する。
更に、本件考案の図面及び考案の詳細な説明の項を参酌すると、前掲甲第二号証(別添の本件公報)によれば、同公報には、連繋梁と脚繋梁の連結状態について、唯一の実施例として、向い合う支柱上部にそれぞれ、ボルト締めにより取付けられた二個の脚繋梁の下方の各取付孔を、連繋梁(これも向い合う支柱の下部にボルト締めにより取付けられている。)の中央より若干の距離を隔てて左右に設けられた長孔に位置させ、ボルト締めして連結固定したものが示され(同公報第1図)、かつこの点に関し、「(脚繋梁)の下方取付孔16を上記連繋梁11の長孔13に位置させボルト14により連結固定する。このように・・・・・各連結梁11に脚繋梁15を連結して床組を完成する。」(二欄一四行ないし一八行)と記載されていることが認められるが、右図面及び記載は連繋梁と脚繋梁が別個の部材であることを前提にして、両者をボルト締めにより連結する「固着」のひとつの態様を示したものということができる。
3 原判決一〇丁表末行の「解される。」に続き、次のとおり付加する。
ところで、「固着」の用語の技術的意義は、二個又は二個以上の部材を固定手段もしくは接合手段をもつて結合することを指すものであるところ、本件明細書に記載された「固着」の用語を手掛りに以上のように、本件考案における「脚繋梁と連繋梁との連結構成」を解釈することは、用語の有する技術的意義に基づくものであつて、控訴人が主張するように、製造方法を考慮したうえでの思考ではなく、控訴人が指摘する最高裁判決も本件とは事案を異にし、適切なものとは認めがたい。
このほか、前掲甲第二号証によれば、本件公報には、本件考案の目的として「地震等の外力に対して強固で床組が破損することのない組立施行の簡単な装置を得ることにある。」(一欄二四行ないし二六行)との記載があり、その効果のひとつとして「床組の組立、部材の換、補修作業がきわめて容易である。」(二欄二四行ないし二六行)との記載があることが認められ、右記載は、前記実用新案登録請求の範囲において床組の構成要素とされている支柱、床パネル、連繋梁、脚繋梁の相互連結に関する場合を指すものと解されるところ、現場で床組の組立作業を行う際、支柱、連繋梁、脚繋梁の連結関係についてみる限り、連繋梁と脚繋梁が別部材の方がこの両者が一体成型されている被告装置より組立が容易であるということができるから、右記載も本件考案において、連繋梁と脚繋梁が別個の部材として構成されていることを窺わせるものというべきである。
4 原判決一一丁裏四行目の「ものであり、」を「ものであるから、」と訂正し、同行「本件明細書中に、」から同丁裏五行目の「記載はないから、」の部分を削除する。
5 原判決一一丁裏一一行目の「部材として構成され、」を「部材として構成されている」と訂正し、同行の「この「固着」という概念は、」から一二丁表二行目の「意味する」までを削除する。
6 原判決一三丁表八行目と九行目の間に次のとおり付加する。
控訴人は、固着の一態様である溶接の方法により連繋梁と脚繋梁が連結された床組と右両者が一体成型された被告装置のような床組を技術的に同視し、一体成型も本件考案にいう「固着」であるとして、被告装置が本件考案の技術的範囲に含まれる旨主張する。しかし、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証(弁理士川原田一穂作成の鑑定書)によれば、床組において、別部材である連繋梁と脚繋梁を固着した構成ではその固着手段のいかんを問わず、水平力を受けた場合には連繋梁に脚繋梁を介して曲げモーメントが働くが、脚繋梁には曲げモーメントが働かず、引張力又は圧縮力が働くのに対し、被告装置では二個の連結部材が水平杆部の中間においてボルト締めされているため、水平力を受けた場合には、傾斜杆部の先端部から水平杆部のボルト結合部までの部分には曲げモーメントが働くが、右結合部から水平杆部の先端までの部分には曲げモーメントは働かず、引張力又は圧縮力が働くことが認められる(なお、原本の存在と成立について争いのない甲第四号証(株式会社フソー技術研究所作成の調査報告書)は、被告装置において二個の連結部材の水平杆部がボルト締めがなされていない場合の曲げモーメントを計算したものであり、右の位置にボルト締めがされていれば、前記のように、水平杆部のボルト結合部から先端までの部分は前記のとおり曲げモーメントを受けないのであつて、この点は控訴人も明らかに争わないところである。)。
このように、連繋梁と脚繋梁が固着の方法により連結された床組と右両者が一体成型された被告装置のような床組とは技術的意義が異なるのであるから、一体成型をもつて固着と技術的に同視することはできない。したがつて、この点に関する控訴人の主張は理由がない。
以上のとおりであるから、その余の判断をまつまでもなく、被告装置が本件考案の技術的範囲に属する旨の控訴人の主張は到底採用できず、控訴人の請求は棄却させるべきものである。
よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとする。